保育園はなぜ卒園式で辞書を渡すのか

卒園式では、記念品の授与が行われますよね。

当園でも、卒園式の際に卒園証書とともに記念品をお渡ししています。

記念品の内容は様々です。

文房具だったり、本だったり・・・

当園では、昨年は地球儀でしたが、最も多くお渡ししてきたのは「辞書」です。

ほかの園でも、辞書を記念品としているところは多いのではないでしょうか。

では、なぜ卒園記念品に辞書をお渡ししているか皆様はご存知でしょうか。

小学校になれば必ず使うから

ボリュームがあり、ありがたみがある

仮に家に2つあっても困らない

どれも正解です。そういった意図も含まれています。

ただ、実はそれ以上に記念品にしている理由が3つあるんです。

ひとつは、「辞書による獲得できる語彙力はあらゆる学問や働く際の基本的な力となるから」

ふたつめは、「小学校1年生からの辞書引きは語彙力を育むのに最も良いタイミングだから」

さいごに、「辞書は主体性を育む効果的なツールだから」

どういうことなんでしょう。ひとつひとつ説明していきますね。

辞書による獲得できる語彙力はあらゆる学問や働く際の基本的な力となるから

「辞書」といえば最初に思いつく教科はなんでしょうか。

もちろん、「国語」だと思います。

教科は他にもいろいろありますよね。算数、理科、社会、生活などなど。

ここで考えほしいのが、これらの教科はそれぞれの教科の知識されあればよいのかということです。

「5-2+1=」という問題は引き算の知識があれば簡単です。

では、こういう問題はどうでしょう。

「かずまくんは買い物にでかけました。買い物先は八百屋さんです。八百屋で5個の甘夏を買いました。その後、帰り道に猫を見かけました。猫はとてもお腹が減っているようで、にゃあにゃあと泣いています。かわいそうに思ったかずまくんは2個の甘夏を猫の目の前に置いてあげました。猫は最初警戒していましたが、甘夏の1つをカプり。しばらく甘夏に夢中でしたが、もう1つには手をつけることなく走り去りました。しかたがないのでかずまくんはその1つを持って帰りました。さて、かずまくんは何個の甘夏を家に持って帰ったのでしょうか。」

どうでしょうか。計算式は同じです。「5-2+1」。ですが、算数の知識があれば解ける問題でしょうか。

八百屋という言葉をしらなければ、甘夏という言葉をしらなければ、かずまくんがどこで何を買ったのかもわからないままです。また、カプりで甘夏をひとつ食べたんだなぁとか、手をつけることなくが置いたそのままであることとか、意味がわからなければ答えを導きだすのが途端に難しくなってしまいます。

そして小学校でも、ここまでではないにせよ国語と数学を織り交ぜた問題は出されます。そして、中学、高校と進んだとしても同様に数学の文章問題というものが出てくるでしょう。

これは数学がただの数字の問題というものではなく、その解決方法などが社会生活と密接に関連しており当然に語彙力が求められるものだかです。

理科、そして社会も同様です。

学問というのは、その全てが社会生活と密接に結びついており、その結びつきを理解するのに語彙力が必要とされているのです。

そして、辞書はその語彙力を身につけるのに非常に良いツールだと考えられています。

小学校1年生からの辞書引きは語彙力を育むのに最も良いタイミングだから

小学校1年生の入学時の語彙量は5000語程度だと言われています。そして、卒業時にはそれが12000語まで増加します。つまり、小学生は在学中に7000語もの語彙を獲得する、人生で最も多くの言葉を吸収する期間といえます。辞書はその語彙獲得期間での有効なツールとなります。

また、今までずっと話し言葉ばかりだったのが、小学校の授業のなかで書き言葉を覚えそれを表現することで物事を客観的に見たり聞いたりできるようになるとともに、そもそも文字を読んだり書けることを嬉しく感じるようにもなります。

小学校は語彙力を高めるのに最適なタイミングで、その効果的なツールが辞書なのです。

辞書は主体性を育む効果的なツールだから

辞書は活用方法を誤らなければ、主体性を育むのに非常に効果的です。

辞書は言葉の集まりです。辞書を適切にひくことで言葉に興味をもつ教材として、言葉を見につけ活用する力を育む教材として、子どもたちの言葉の力を育みます。そして、言葉とは思考力やコミュニケーションにつながる重要な要素ですから、言葉の力が育つことで、これからの子どもたちが求められている「主体性」が育まれることにつながるのです。

辞書は適切な活用が必要

では、辞書を子どもたちに渡したらそれでOKなのでしょうか。

今まで辞書なんて見たこともなかった子どもたちにとって、辞書を使いこなすのは非常に難しいです。

なので、最初は一緒に言葉を調べながら使い方を教えてあげましょう。

ただ、使い方を教える際に一つ注意点があります。

それは、辞書を「わからない言葉の意味を知るために使うもの」とは教えないことです。

正確には、辞書は「わからない言葉の意味を知るために使うもの」だけでなく、それ以上の使い方があると教えてあげることが重要です。

どういうことなのか、詳しくみていきましょう。

辞書引き学習

辞書といえば、「わからない言葉に出会ったときにその言葉の意味を調べるもの」と考えている方が大半なのではないでしょうか。

もちろん、そういった使い方もあるのですが、小学校では以下のとおり教えているようです。

① わからない言葉の意味を調べる

② 漢字での書き表し方を調べる

③ 言葉の使い方を調べる

たしかにこの使い方も非常に大事です。ただ、この3つの使い方のために辞書を活用する機会は果たしてどれぐらいあるでしょうか。

実は、わからない言葉と出会う機会はあまり多くありません。日常会話程度であれば小学校入学前にある程度やりとりできるようになっているからです。また、知らない言葉が出てきても、その場で大人が意味を教えてくれることが大半でしょう。

また、漢字の書き表し方や言葉の使い方についても、多くが大人がその場で指摘して学びます。

つまり、この使い方ではそもそも辞書を引く機会は多くありません。

実際に使うのも、家のリビングで子どもが「●●ってどういう意味?」って聞いてきたときに、説明難しいし辞書で調べてみたら?などと誘導して辞書を引くことになってしまいます。

これでは、自分から辞書を引く習慣にはつながりません。辞書を活用できておらず、非常にもったいないと思います。

では、どのように辞書を引くとよいか。

それは、「わからない言葉の意味を調べる」のではなく、「わかったつもりになっている言葉の意味を調べる」ことです。

小学校入学時には5000語の語彙を有しているので、いくらでも辞書は引き放題です。そして、~だと思っていた言葉の意味が実は違った、もっとわかりやすい意味があったなど、新たな言葉の学びを得ていくことができるようになります。

このような辞書引きの方法を「辞書引き学習」といいます。

この辞書引き学習を保護者の適切なかかわりのなかで続けていくと、めまぐるしい成果がみられることが実証研究からも明らかにされています。

ここでは、簡単に辞書引き学習の方法を説明していきます。

辞書の見出しを眺める

最初は辞書を眺めるだけでいいです。最初から辞書を調べさせようとしないでください。ハードルが高すぎて、続けられないです。見出し語をただ長め、声にだして読んでいきましょう。そして、次に続くように、「あ!知ってる」って言葉にであったら教えてねとだけ伝えておきます。

知っている言葉を探す

さきほどお伝えしたとおり、知らない言葉にふれることはあまりありません。そのため、見出し語を眺めながら知っている言葉さがしを最初に行います。知っている言葉を見つけたら、付箋にその言葉と数字(1から順に)を書いてページ上部に貼ります(字をまだかけない子は保護者が書いてあげてください)。これをどんどん繰り返していくと、辞書の上部は付箋でいっぱいになります。いっぱいになった付箋を見て、こんなに言葉を覚えたんだね、がんばったね、と伝えてあげてください。

頭の中に入っている自分の知っているたくさんの言葉が、目に見える形で目の前にある。ナンバリングしているので、どれだけ覚えているかも数字ですぐにわかった。こんなにいっぱい知ってるんだ、褒められるぐらい覚えたんだと実感でき、自己肯定感が高まります。

まずは、自分がここまでがんばったんだと自分自身で納得することが大事です。

調べたいと思ったら調べる

以上のように知っている言葉を付箋にしていくと、あるときに自分の知っている言葉と辞書に書いてあることが違うかも…というタイミングがやっています。見出しだけを見ているつもりでも、目に本文も入ってきますからね。

そうすると、「あれ?知っている言葉のつもりだったけど、実は知らないことばなのかも。ちょっと気になる、調べておこうかな。」と、知っている言葉でも、念のため調べておくことが大事だと気づくようになります。

この時点で初めて、調べさせるようにします。

調べるのが早すぎると、やる気をなくしてしまいまし、調べようという意欲を削いでしまうことになります。

詳しく知りたくなった方は

以上が「辞書引き学習」の基本です。

くわしい「辞書引き学習」の方法については国語辞典の編集委員も務められている深谷圭助氏の「1年生になったら紙の辞書を与えなさい」をぜひご覧ください。

そこでは、辞書引き学習を維持するための方法や、辞書をリビング・ダイニングに置いてすぐ手に取れるようにしておいた方が良い理由、辞書は箱にしまうな!など、興味深いおはなしがたくさんありますよ。